Planet Of Dragon+

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Phase transition 3

 

「……疲労、いや過労です」
溜息と共に出された言葉に、遊戯は目を見開く。
「……っそ、だぁ……」
モクバも居る手前何とか押さえ込もうとしたけれども、心の底からそう思う自分にだけはうそがつけなかった。しまったと慌てて口元を押さえる。
けれど、それを制したのは当のモクバだった。磯野が溢したそれよりももっと深く湿ったと息を漏らし、額に手を当てる。
「いいさ。ふつーなら誰だってそう思う。いつもの兄サマを知ってる遊戯が言うんだからもうどうしようもないよな。
誰よりも兄サマを見てきたオレだって、いくらなんでも行き過ぎだろって、なってたし」
全ての準備を完璧に一年でこなして、ただひとつの目的のために宇宙空間にまで届く巨大建造物を建設して大気圏を飛び出した。
それでも、ありとあらゆる手段を講じても叶わないと判ると、今という時間、ここという空間さえもなげうつ覚悟で、違うところへ飛び出していったのだという。
「大気圏離脱、突入にかかるGにはすさまじいものがあります。あの無茶な闘いの後にそれを繰り返していれば、いかに強靭な肉体とて限界を超えてしまいます」
無茶が過ぎますぞ、瀬人様………!
拳を握り締めながら強化ガラスの向こうを見据え、嗚咽を漏らす磯野は本当に男のことを思っているのだろう。
しかし遊戯としては呆れた顔をするしかない。先ほど感じた怒りもまだある。聞かなければいけないこと、説明しなければいけないことも出てくるだろう。でもそれも後回しだ。
「……それにしても、ここがこんな風になってるとは思わなかったよ」
遊戯はガラスの向こうの部屋を眺めた。

KC最上階にあるのは社長室くらいだと思っていたが、その先には完全に区切られたメディカルルームが存在していた。そこにある集中治療室で今、男は静かに眠っている。あまりに静かが過ぎるのでよからぬ想像をしてしまい慌てもしたが、メディカルスタッフから鎮静剤を打って眠らせているとの旨を説明されて遊戯はほっと胸をなでおろした。
「急に居なくなっちゃったから、気にはなってたんだ。ここに居たんだね」
そう呟くと、ゆっくりとモクバが口を開く。
「……まあ、身体はな。
けど、中身はどうなのかわからない。危険すぎてどうなるか判らない装置に自分から乗り込んでいった兄サマは、地上に装置がついたときもう意識がなかったから。
意識がない兄サマの身体だけ病院においておくなんて……できないだろ。
だから、ここはオレが兄サマ専用に用意したんだ。ここなら、すぐに目が届く。どこよりも安全だし。
それに、オレは兄サマから後を任されたんだ。だから、オレがやらないと」
「……モクバくん」
「……問題ないさ。兄サマに任されたんだ」
言いながら顔を上げて前を見る。彼もまた強くなっていた。
「……そう、だね」
ガラスに映り込む幼い瞳は未だ何かをこらえているようだけれど、折れてはいない。
その強さに少しだけ微笑みかけ、遊戯もモクバと同じ場所へと、視線を動かした。

男は、未だ目を覚まさない。




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*無理無茶無謀の三大セットが専売特許でも、物理的に不可能はあるんですよと思いつつ書いた相転移三回目。劇場版のテクノロジーには突っ込みが追いつきません。大好きです。

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