Planet Of Dragon+

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Phase transition 2

 

さて、どう説明したものか。
遊戯は見上げてくる青い瞳に考えを巡らせる。
「……ええと」
「……お早く」
間を繋げるための言葉にさえ反応してくる相手の、威圧感のすさまじいこと。ないはずの表情に不満がにじんでいる。
「あー…」
「……」
「……ご説明できぬとあらば、今すぐ私とご帰還願いましょうか」
有無を言わせぬ迫力。そういえばいつだったか、かわいげのないところも瓜二つだとぼやいていた言葉を思い出す。
……どうしよう。
強く出てしまった手前、何とかして収拾をつけなくてはいけない。が、思いつかない。
背中を伝う冷たいもの。視線を泳がせていると、相手はまたしても違う方面に勘違いしたようだ。
フゥンと鼻を鳴らし、じとりと遊戯を睨みつけてくる。
「大方誰にも何も言わず抜け出されたのでしょうが、探し出す我々の労力もご考慮いただきたい。神官は暇をもてあましているわけではないのです。私はあなたのお付きのように甘くはありません」
ねちねちと溢される回りくどいお説教。
似ているけれども、違う。
目の前の彼がいつもの彼と同なら、こうも曲がりくねった表現はしないはずだ。
ただ、どう切り返したものか。
どこをどう説明していいか、全くアタリがつけられない。
考えあぐねていた時、ど、何かが金属性の床に落ちる音が響いた。同時に上がるのは、悲鳴のような鋭い叫び。
「瀬人様!!」
「っ?!」
はっと視線を戻すと、跪いていた彼が手を突っ張って倒れそうな身体を支えている。今まで気付かなかったが顔色が悪い。青を通り越して土気色だ。
「瀬人様!!」
「……静まれ!問題ない」
磯野の悲鳴に、それでも体のバランスを保とうとしている。
その姿を見た遊戯の記憶が、あの記憶と被る。

やたらとプライドの高い、ついでに言うなら背も高い男だった。
鼻持ちならない高慢さが見知った男によく似ていて、友人たちと驚きの声を上げたっけ。
男は色々と高いづくしで、加えて実力さえも高かった。なのに何が不満だったのか、男はやたら勝つことに執着していて。
そう、だからよく似ていた。
目の前にいるはずの男に。
自分たちの記憶にない名は、あの時はわからなかったけど。まさか。
「……ご帰還、を」
血の気のうせた顔色で、尚且つ言い募ろうとする男にだんだん腹が立ってくる。それほどまでして守りたいものはなんなんだ。守るべきものは一体なんなんだ。守ってきたものは、なんだったんだ。
同じではないだろうと半ば理解していながら、視界の端で泣いている年下の友人を見ていられなかった。
こうなったら、と遊戯は賭けに出る。とにかく今は、何よりも大事な事がある。
「せと、さん!」
「……は」
「説明は後で。とにかくあなたは、その身体を休めてください」
「……は……?」
面食らった青に、可能性が確信へと変わる。だから遊戯は異を唱えられるより先に言葉を重ねた。
「文句は後で聞きます。今はとにかく、その体調を戻してください!!」
強い声。今や世界一の大会社の社長である彼の弟や、黒服たちまでもが息を止めるほどの。
「いや、私は」
「いいから!説明は後にして!早く!」
「……っ」
「は、はい!」

鬼気迫る遊戯の叫びと息を呑むモクバの気配。
他の誰の指示も受けないはずの磯野が背筋を正して返事をしたとき。

「に、兄サマ!!!」
鈍い音と悲鳴が、間を置かずに響き渡った。




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*相転移二回目。遊戯さんかっこいいを表現したかった。
いざとなったら誰よりも何よりも強い決闘者こそ遊戯さんだと思っています。

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