Planet Of Dragon+

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Sample

Phase transition 1

 

何かが、耳元でけたたましく鳴り響いている。
机の上に突っ伏したままだった遊戯は、重い頭に手をやりながらやっとのことで身体を起こした。ぼんやりとかすむ視界に入るのは自分のスマートフォン。一体いつからなっていたのかわからないが、それが着信を告げている。
着信元は見覚えのないもの。しかしこのところゲームの原案を様々な企業に持ち込んでいる。申し込み先企業の電話番号など覚えているわけがない。
もしかしたら、と思いもするが、にしたって大分これ呼び出しが長いような……
うっかり本気で寝てしまって次の日なのかと思いもしたが部屋の中はデスクライトしかついておらず、まだ闇の中。あの眠りはまだ転寝のようなものだったようだ。どんな企業でも連絡を寄越すには非常識な時間だ。
もしかして、夢を追って渡米した友人かとも考えたが、彼女が時差を考えないわけがない。
「……誰だろ……」
間違い電話の可能性もある。そう思い少しそのまま様子を見たが、コール音はあきらめる様子もない。
留守番電話に繋がった、と思いきや再び鳴りはじまる。それの繰り返し。
ややあって、遊戯は小さく溜息をついた。スマートフォンを持ち上げ、着信をクリックする。
「……もしもし?」
完全に根負けしたよと、呆れた声色でそう答えた耳元に、響いてきた、半泣きの声。

『遊戯!!頼む助けてくれ!!』

他の誰にも頼ることなどない。ただ一人を除いては。
そんな、まだ幼さの残る悲鳴が、遊戯に残されていた眠気を一気に吹き飛ばした。

 

専用エレベーターで最上部まで上がり、案内されるまま廊下を駆け抜ける。
KC本社の社長室。ここはその先にある関係者立ち入り禁止の区域だ。通常であれば重ねられたセキュリティで侵入者を拒む。実際、遊戯もここを見るのは始めてだった。
何の飾りもない金属製の、人を拒む金庫のような壁。廊下であるのに地下のような印象さえ受ける冷たさには、まるで温かみを感じない。
常時であれば。だが。
「この先です!」
息を切らせながら遊戯を案内してきた黒服は磯野といったか。確か彼は最も古参の部下だ。電話をかけてきた年下の彼からも信頼が厚い。あの決闘の最中も、常に傍らにいて電話をかけてきた彼の身を守った居たはず。
その男が酷く慌てていた。
「い、ったい、何が」
あったんですか。
そう問いかけるまもなく、目の前の扉が開いた。そして。

「ええい!離さんか無礼者!」
屈強な男数人によってたかって抑えられつつ、それでも歩を進めようとする背の高い人物。
傍らでは遊戯に電話をかけてきた少年……モクバが見たこともない程おろおろとしている。
「落ち着きください!」「お気を確かに!」
相手が相手だけに本気でかかれないのだろう。なんとか言葉で押さえようとしているが、返って逆効果だ。
「何を言う!私は正気だ!貴様らこそ控えよ!私を誰だと思っている!その手を離せといっているのだ聞こえぬか!」
「兄サマ!」
悲痛な声に、逆上した彼がギ、と視線を向けた。びく、とすくむ弟に、兄であるはずの彼の視線が突き刺さる。
それは、恐怖を超えた殺意さえ感じさせるもの。
「誰のことだ!私はお前など……」「待って!」

だから、遊戯は声を上げていた。
一瞬で、その場に静寂が訪れる。
「……それ以上は、ダメだ」
静かな一言。
真実を告げたあの時と同じようにまっすぐ彼の瞳を見て、遊戯は言葉を繋げる。
「それ以上は、ボクが許さない」

驚きに彩られた青い瞳が大きく見開かれ、そして。
「……承知致しました」
突如として全身から力を抜いた彼が、その場に膝を折る。いつも見上げるだけだった長身が目線よりも低くなって遊戯は面食らった。
「……え、っと、わかってくれればそれで」
「ただし!」
続けようとした言葉を遮り、低い声が響く。
「かような場におられる事をご説明願いましょうか。我が王よ」

同じ威圧感に圧されながら、どう説明したものかと。
遊戯は数分、その場で固まることになった。



>>>2
*考えるだけ考え込んで突如がたがた打ち始めた代物。題名に困った挙句ウィ○ペディア大先生に泣きつきました。「相転移」の意味。たどり着きたいところはあるのですが遅々として進まず。どれくらい続くか判りませんがお付き合いいただけますとありがたいです。支部の方が更新は早いかもしれません……

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