Planet Of Dragon+

http://planet-d.jp

Sample

邂逅(後)

 

「……ええと、それで……?」
いまだ困惑の残る声で、遊戯の母は青年に目を向ける。

驚くなと言うほうが無理だ。なぜなら、目の前にいるその人物は自分の息子に過ぎるほど似ていた。生き写しと言う言葉があるが、まさにそれだろう。合わせ鏡のようなその姿は、隣り合って座っていてまるで違和感がないほど。
けれどよく見れば鋭くも見える目と独特な髪の毛が少し違う。もっと決定的に違うのは、肌の色。息子のそれが白く見えてしまうほど、その青年の肌は健康的に見えた。
「それにしたって、よく似てる……」
思わず漏らすと、視線の先で赤の強い紫がふわりと和らぐ。

「名乗るのが遅れてすいません。ユウギ・A・イウ・ス・イル・ス、といいます」
綺麗な笑顔を浮かべてぺこりと頭を下げる青年。見た目に反してまったく違和感のない発音と言葉遣い、その名に彼女は再度、驚かされる。
「ゆう、ぎ?」
「はい」
確かめるように名を呼ぶと、彼は微笑む。それはそれは、うれしそうに。
その青年から聞かされた話に、少なからず驚くことになる。

「ええと、じゃあ、あなたは何年か前、遊戯がエジプトに行った時にお世話になった、と」
この青年はエジプトで息子に助けられたと言う。そのとき、散々迷惑をかけて、そのまま現地に残らざるを得なくなった、とも。
言われてみれば、帰国してからの息子は一時期落ち込んでいた。声を掛けることすらはばかられるほどに。
「あの後……オレはちょっと、動けなくなってしまって。まともにしゃべることも、出来なくなってしまって」
「もしかして、怪我でもしたの?」
「……はい。ちょっと。怪我のような、もので」
物言いのはっきりした青年なのに、そこだけ僅かに言いよどむ。ふと気になった彼女がちらりと息子を見やったとき、その表情に驚いた。
息子のそれは、目に見えるほど青ざめていたから。だから自然と、声が出た。
「危なかったのね?」
「え?」
「危険なことになってしまったんでしょう?とても」
「……はい」
怒りを乗せた声に、びくりと反応したのはやはり息子で。だから彼女はきっ、と青年にきつい目を向ける。何故かは判らないが、止まらなかった。
「何故そうなったのかは判らないけれど、 誰かを悲しませるようなことは、絶対に避けなさい。
それは、あなたが一人ではない証拠だから」
もう二度と、そんなことにはならないように!
びしりと指先を突きつけたときに、彼女ははっとする。
ついつい、小言のようなことを言ってしまったが、この子は自分の息子ではない。しかも初対面。
「や、やだ。遊戯に似てるっていっても初対面なのに。ごめんなさいね」
あはは、と笑ってごまかそうとする前に、静かに青年が立ち上がる。怒らせたのかとあわてていると彼は目の前に跪き、そっと手をとってきた。静かに見上げてくる瞳に、思わず言葉を飲み込んでしまう。
僅かに沈んだそこには、ゆるぎないものがある。
「……オレは、遊戯をとても悲しませてしまいました。多分、そのことで貴女にも心配をかけてしまったかと思います。それは、いくら謝罪しても足りないほどに。
でももう二度と。そんなことはしないと誓いました」
最後は綺麗に微笑み、そして更に青年は続けた。
「オレにはもう、父はいません。母も、大分前に、記憶に残らないほど幼いころなくしています。
それで、もし、嫌でなければ。
オレのことを心配してくれた、貴女を。
母上と呼んでも、いいでしょうか……?」

「……母上、ですって!おじいちゃん!聞きました?!」
孫と『彼』がとりあえずの住居としている孫のマンションに引き上げた後、何度目かの浮かれた声を聞いて、双六は苦笑する。
「まあ、あの子はいいところの出じゃからのう。それなりの教育は受けておるよ」
「まあやっぱり!ははうえ、なんて今時聞かない言葉ですものね!私なんだかどきどきしちゃいましたよ。だって、母上、ですよ?」
なんだか、貴族にでもなったような気分ですね、と。
始終上機嫌でいる彼女に、『彼』の出自の真実をどこまで話していいものか。言ったところでまず信じられそうにない話だが。
とりあえず王家の出であることも……しばらくは言わないほうがいいだろう。この浮かれ具合が酷くなるような気がする。
「息子が一人増えるって、こんな気持ちなんですね!」
ユウギは次いつくるのかしら。
もう一人の息子の次の来訪を心待ちにする義理の娘に、当面は何も話さないでおこうと。
老人はそっと、リビングルームを後にした。


Back<<<

*王様に遊戯さんのお母さんを『母上と呼んでもいいですか』と聞かせたかっただけ。それだけです。どんな書きなぐりでも満足はした。
SS Back