Planet Of Dragon+

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Sample

You'r The Only Melody

 

意外なものを見た、と。
名を呼びかけてどうにか声を飲み込んだボクはそう思った。
もしかして、初めてじゃないだろうか。
もう一人のボクが、居眠りしているところを見るのは。
「……」
そうっとそうっと、ソファにもたれたまま眠るもう一人のボクに近付く。
出来うる限り静かに、気配を消して。
新しいカードを確認していたのだろうか。最新号のデュエル専門誌は膝の上に開かれたまま。
近くに寄っても、もう一人のボクの赤い目は開かれない。

これ、ホントに寝てるだけだよね……?

ふ、と過ぎった思いに自分で判るほど体が震えてしまう。冷たくて暗いあの遺跡の中に放り込まれたような感覚。
それはじわりと足元から這い上がる、凍える影のように。

「……っ」
あり得ない、こと。
共にあると誓った、誓ってくれた。
過ごす時間は永劫にと、君は言った。勿論それを信じないわけ
じゃない。
それでも。

つい、と伸ばした指先はもう一人のボクの鼻先。
感じた穏やかな吐息に、つめていた息を吐き出して安堵する。
その瞬間。
「……ぁ」
身体から力が抜けた瞬間バランスをとろうとした手が、そのときもう一人のボクの胸に触れた。
伝わった衝撃で起こしてしまったのではないかと焦ったものの、君から聞こえてくるのは穏やかな吐息だけで。
起こさずにいたらしいと知って止めていた息を吐き出す。
そのときになってはっと我に返った。

指先に伝わってくる体温。微かな鼓動。
―――――生きている証。
それだけ。
ただ、それだけのはずなのに。
つんと鼻の奥が痛くなるのは何故だろう。
溢れてしまいそうな感情をどうにか押し込め、いまだ目を開けないもう一人のボクの身体にすり寄って、ボクは触れた場所に耳を押し付ける。
聞こえてくる鼓動はゆっくりと穏やかで、でも、強い。

ああ、君がいる。
生きている。
夢でもなんでもなく、ここで。

穏やかで心地よいただひとつの音楽に耳を傾けながら。
ボクはゆっくりと、目を閉じた。

 

鼓動の変化がばれやしないかとひやひやしたが、相棒には気付かれなかったようだ。
穏やかな吐息が聞こえてきた後たっぷり時間を置いて、オレはそうっと目を開けた。なるべく身体を動かさないようにして視線を向けると柔らかな表情。
オレの心臓の位置に耳を押し付けたままの相棒はこの上なく幸せそうで。
オレもまた緩く微笑む。

オレが戻ってきて、相棒と共に暮らし始めて。
時折騒がしくもあるが穏やかに時は流れている。
冥界の扉をくぐった時。
失われた記憶を取り戻し、進むべき先を決めた時。
全く後悔がなかったわけではない。
過去を過去とするには早い。考える時間さえもが一瞬に同じ
だった。
それでも、過去よりは今を見ていたいと思えるようになったのは、胸元にあるこのぬくもりのおかげだろう。
共に在りたかった、ただひとつの。

そして、再び並び立つ事ができた今。
まだ、聞いていない事がある。答えて貰っていない事がある。
だが、慌てることはないだろう。
聞きたい反面、聞かなくてもいいような気がしているから。

だから、いつか問おう。
そのときは答えてくれるか?相棒。

声にならない小さな問いかけは、未だ音にならず。
ただ優しい時間に溶けていく。

それはいつか、きっと。
別の確かな音を纏って。
―――――了







これを書きたいがために三ヶ月うんうんうなって18Rを書きました!
というわけです。はい。そちらは後悔していませんが大変でした。
王様と遊戯さんにとっては、何気ない時間こそが得がたいもののはずなので、幸せになってほしいのです。
因みに今回も大元は曲です。これは是非アテ表でという内容でした。

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