Planet Of Dragon+

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マイトレーヤの微笑み

はあ、と溜息のように吐き出した最後の呼吸。
体はまだ温かいのに、何故かとてつもなく冷たくて。
自分の事でも他人事に遠く感じていた。

すう、と意識が落ちていく。
深い場所にゆっくり、ゆっくりと。

同時にボクは思い出す。
遠い遠い過去、とても旧い記憶。
鮮明によみがえる思い出はいつも懐かしさと暖かさと、ほんの少しの痛みに彩られていて。
忘れていた事が嘘のように、ボクを包み込む。

そしてここで、いつも聞こえて来るんだ。
怖いものなんてないはずなのに、どこか後ろめたさを含んだあの声が。

―――――……。
うん。ありがとう。見えていなくても、声だけでも嬉しいんだ。
きっと、ほんとうはもう会えないはずなのに、こんな時でも来てくれる事が。
次に『声を聞ける』のがいつなのかは判らない。聞けるのかも判らないから。
もう、何回目になるんだろうね。

ふ、と溢した思考に寂しげな気配を感じる。
どうしたのと返そうとしたけれど。

一瞬で、再び視界が真っ白になる。
ああ、新しい時間が始まる。

[newpage]

同じ事を幾度、繰り返しただろう。

「……相棒」
唐突に意識が放り出された日、一瞬で全てを思い出したボクの目の前に、君が現れた。
王の姿でボクの手をとり哀しげに、それでも微笑んでいる。
「……いつもと、違うね。
なんだか申し訳ないな。神様の君にいつも声をかけてもらって。
でもね、どんな時も、先に君がいるかもしれないって思うから、だから、ボクは」
進む事が出来るんだよと、続けようとしたボクを遮って、君がボクを抱きしめる。
つよく、きつく。抱き潰すように。
「……数えるのものも億劫なほどだ。迎えて見送った数なんて、な。
お前の邪魔になると思っていた。本来なら関わらないはずの流れだ。正常なものに戻ったなら、もう触れてはいけない。だから、望んではいけないことだった。だが、オレは望まずにもいられなかった。
ここが、果てなんだ。相棒。繰り返された時の最終地点。すべての終わり。
そして、すべてが始まる。
この瞬間……他の何を置いても、オレはお前を迎えに来ずにはいられなかった」
優しい声が耳元で囁く。
そうだ、ボクは。
ボク達がいた、場所は。

「……っ」
ひくん、と喉が震える。
望んではいけないと君は言ったけれど。それはボクも同じだ。
ほんとうは、あいたかった。
一緒に進みたかった。

「もう、一人の、ボク」
「……ああ」
「今度は、一緒に」
「ああ」
「一緒の、時間に」
「……お前が否と言っても、オレが拒ませはしないぜ」
「……うん」
「それこそ、世界の果てまで」
「……うん」
オレは、永遠にお前と共に。

そして囁かれた言霊が、始まりの音となった。


―――――了







劇場版四回目を見終わって車で帰宅途中に半泣きで思いついたもの。マイトレーヤは調べて出てきたのでなんとなく。待つなら王様は何年だって待ってくれます。次の世でこそ永劫の時を共に。

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