Planet Of Dragon+

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Lotus 1

 

遠く近く
近く遠く

重なる時はかの花のように。
巡り巡る軌跡は誓いを超え 真白き願いのその奥へ。



Lotus



道が悪いのだろう。揺れが酷い。時折空中に放り出されるような感覚もある。
……どちらにせよ、良くない場所に向かっているのは確かだ。
視界をきつく巻かれた目隠しで奪われたまま、遊戯は周囲に気づかれないようため息をついた。

この国に立ち寄ったのはたまたま近くにいたことに加え、KCのイベントのためだった。
だが、今思い出してみれば社長である海馬もモクバもイベント自体に乗り気ではなかったように思う。あの海馬が珍しく、口頭とはいえ二回も確認をよこしたこと、モクバが衛星通信の画面で心底心配そうに何度も「いいのか?大丈夫か?」を繰り返してきたことから、それが伺える。
確かにここは紛争地域で。平和ぼけしている日本人が自国のつもりで足を踏み入れてはいけないところだ。それはわかる。
でも、いかに内戦状態であっても、他国からの来訪者に子供の人質をちらつかせて自由を奪うってのはどうなんだろう。あまりにもプライドがなさすぎやしないだろうか。
しかも目隠しして手足を縛って……まあ、荷物よろしく転がされて運ばれないだけましなんだろうけど。
それでも両隣は屈強な戦闘員が固めていて、目の前にも二人ほど居るようだ。この厳重さが気持ち悪い。
それにしたって、ただの決闘者にこれだけの人数を裂く理由が知りたい。
どちらにせよ、ろくなものでないことは確かだけど。

そんなことを考えていると、がくん!と車体が揺れ、身体が横に飛ばされそうになる。不意に回ってきた大きな手が引いていなかったら、間違いなく車の床に転がっていただろう。そこだけはありがたいと思う。でも気持ち悪いから早く離れてくれないかな。
「………」
「………」
思わず上げそうになった声も思ってしまったことも出さず黙殺していると、不意に周りの連中の声が変わった。
交わされている会話は英語ではないよくわからない言語だけど、焦りだけは伝わってくる。
ばたばたと前を横切る足音。加えて左隣の気配が消えたことで、予測は確信に変わった。
何だろう。
ふ、と意識を外の物音に集中したとき。
一瞬、音が消えた。

「……!」
唯一残っていたらしい最後の誘拐犯が何かを叫んであわてて立ち上がる。そのまま車の幌の外に気配が移動したところで、小さなうめき声と何かが崩れ落ちる音になる。
セオリー通りのことをやってくれたけど、本当にこの人たちは何がしたかったんだろう。僕を拉致したところで、何ができるって訳でもないだろうに。
しみじみとため息をついたとき、何かひんやりとしたものが首筋に当てられた。

「………?」
目も見えない、身動きもとれない僕に、誰かが何かを問いかけてくる。イントネーションからして先ほどの連中が使っていた言葉だろうか。
「……?」
僅かにじれたような声色。とにかく何か答えた方がいいと判断して、僕は口を開く。
「あのさ、僕にはこの土地の言葉がわからないんだ。何か聞くなら英語か日本語だとありがたいなあ」
英語で答えたら敵と判断される、なんてこともあるだろう。だから警戒の意味も込めて、日本語で返してみたんだけれど。
「……ああ、ならお前で間違いないのか」
これまた流暢な日本語で返されて、こっちが戸惑ってしまう。
「……え?」
「助けにきた」
呆然としていると、首筋のものをさっとはずされ、同時に視界を覆っていた布も取りさられる。
眼球が圧迫されていたからか、ぼやけてしまった視界に映り込むのは、小柄な人影。それでも僕より上背がある。
「きみ、は?」
「救援だ。お前のオトモダチからお前の身柄の保護を依頼された。お前、もうちょっとでアジトに連れ込まれてたぞ。
運がいいな」
言って笑う男性。目が慣れて目の前の容姿がはっきりしてくるにつれ、僕は言葉が出なくなっていく。

だって、あんまりだろう。
褐色の肌。僅かに赤みがかった瞳。
あの独特の髪型さえも、写し取ったように同じ。
記憶の中から切り取ったようなその姿が声が、更に成長までしてここにあるなんて。
「……おい?どうした?まさか目が見えないとか言うんじゃないだろうな」
心配そうに覗き込んでくる瞳の表情。それまでもが同じで、僕は出ない声を必死で出そうとする。
「き、みの、なまえ、は」
「……?アテム、だが」

懐かしい音。
懐かしい名前。

なにもかもが、同じ。
でも。

絶対に同じじゃないことを、誰よりも理解している僕にとって、今は。
いったい何の、罰が当たっているんだろうか。



>>>2
*突然思いついて始めた代物です。『王様のリアルファイトが見てみたい』ただそれだけ。
古代王が私の好みドストライクで(褐色肌が弱点なんて自分でも気付かなかった性癖を暴きだしてくれましたよ)もうどうにもならなくって、ゆぎおは主人公が暴力ではない方法で天誅与えるとかどっかで聞いたコンセプトをぶっ飛ばしたくなってしまったのです。
でも王様、傭兵は出来ないよなあ…甘いから…
どう続くのか判りませんが、よろしければお付き合いください。

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