Planet Of Dragon+

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光の指す方へ

 

その場を揺るがす音と共に、扉が開かれる。
闇に差す光。まばゆく優しく、そして向かう先を示すもの。

振り返ってはいけない。
名を取り戻した。因縁は絶った。
行く先を示してくれたあの涙を裏切ることは出来ない。

それでも、躊躇ってしまったのは己の心の弱さ故か。

何年経っても仲間だと、叫ぶ友の声が聞こえる。
本当の名ではない名を呼ばれ、その呼び名に、何よりも安堵する。

右手を突き出し、親指を掲げながら。
それでも左手の拳をきつく握り締めてしまったのは、堪えるためだったのだろう。
今なら、判る。

多分、あの瞬間―――――

「もう一人のボク!」
「……っ?!」

目の前でひらひらと手を振ると、彼は驚いたように数回瞬きをした。ぼんやりとしていた瞳が瞬時にはっきりとしたものになる。こちらに向けられた目が珍しく幼く見えた。
「あい、ぼう?」
「さっきから呼んでるのに、何ぼんやりしてるんだよ」
はい、とマグカップをテーブルに置いて隣に腰掛ける。すると彼は、ゆっくり手を伸ばしてそれを持ち上げて口をつけた。
「何、帰ってきて疲れた?」
「……いや」
問いかけに、迷うような気配。何か聞かれたくないことでもあったのだろうか。
「明日、必要なもの買いに行こうか。君はほぼ何もなく還って来たんだから、色々必要なもの……っ」
気を取り直してと、続けた言葉を遮ったのは彼の腕。
肩に手をかけられて、倒れこむように引き寄せられる。少しだけ力任せで、けれど乱暴ではない。
「……どうしたの」
「……少し、思い出していた」
白いだけのマグカップをことりと置き、彼の目が遠くを見るそれになる。ふわりと漂うのは、彼の口にしたコーヒーの残り香だろうか。
「もうひとりの、ボク」
遠くを見つめるその目が、痛みをこらえるようにも見えて。
思わず手を伸ばすと間髪なく掴まれる。
指先を絡め、きゅうと握り込まれて捉えられてしまう。

「……いや、問題ない」
もう、ここに居る、と。
こちらに向けられた瞳はただ優しげに微笑んでいた。

「あの時、置いていったからこそ。
今ここに居られるんだからな」
「……そう」

置いていったものが、何なのか。
いつかは、聞けるときが、教えてくれる時が来るのだろうか。




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