Planet Of Dragon+
http://planet-d.jp
Sample
路傍の花
- あてもない旅の途中、ふと、視線を落とした先にそれはあった。
ささやかに、隠れるように。
けれど、しなやかに上を向く、小さな花。
茎は細くて花自体も小さくて、弱弱しくも見えるけれど、しっかりと顔を空に、太陽のある方向に向けている。
花は、いつでも光に向かって咲いていく。
『光』という単語に、ふと、彼を重ねてボクは笑う。
「……ボク、も」
しゃがみこみそっと伸ばした指先で白い花弁に触れて、気づけば語りかけていた。
「ボクも、キミのようになれるかな」
どんなに小さくても細くても折れそうでもちゃんと、前を向いて。
彼がそうしたように、彼のように生きていけるだろうか。
彼にはどれだけ助けられただろう。
その存在を知るのに少し時間がかかったけど、彼がボクを『相棒』と呼んでくれたときは嬉しかった。
認められた、気がして。
だからボクも強くなろうとした。彼の隣に在る事が出来るように。
助けられるだけではなくて、彼を助けるボクになりたかったから。
ボクを庇うあの背中に並び立ちたかったから。
決闘の時に見せるあの気迫も、一歩も引かない姿勢も、あの強い視線も何もかもが。
ボクの、憧れだった。
だから、ボクは。
ボクが、闘いの儀に臨んだ。
護られていたボクが、今度こそ彼を護る番だと思ったから。
三千年もの間彷徨った彼を逝くべき場所へ導く役目は、他の誰にも譲りたくなかったから。
「……でも、駄目だね。ボクは強くないや」
ぽつり、と本音が零れ落ちる。
「今でも、君を探してる。引導を渡したはずのボクが。
いるはずのない君を、つい振り返ってしまう。
そこにもう君はいない。わかっているはずなのに、知っているはずなのに、どうしても」
あんなに力強く、凛と生きた人をボクは知らない。
あんなに美しかった人を他に知らない。
多分、彼以上にまぶしく思える人にはこれからも出会えないだろう。
……だから、本当なら。ずっと。
君の隣に、いたかった。
ボクの隣に、いてほしかった。
追いかけるのではなく追い越すのでもなく、並んでいたかった。
「君のように強くありたいけれど。
こんなに弱くて、ボクは君のような生き方が出来るだろうか」
そっと、吐息にまぎれてこぼした呟き。
そのまま目を閉じたとき、不意に風が巻いた。
そっと、前髪をなでる感触に目を見開く。
するりとすべるこれは、風というよりも少しだけ大きなヒトの指のようで。
よく知った感触に、似すぎていて。
身体の震えを止める事が出来ない。
お前はお前だ。他の誰でもない。
だろう?遊戯。
そっと鼓膜を震わせるのは、懐かしく優しい、力強い声。
まさかと思うけれど、聞き間違えるはずもない、彼の。
「っ!アテ」
ム、と。
名を呼んで顔を上げる。しかしそこには誰もいない。
ただ、風の名残がボクの髪を巻き上げて過ぎていく。
いつの間にか目じりに溜まっていた、ボクの涙を連れて。
「……そう、か」
ふ、と息を吐き出して、再びそこに目を向けた。
小さな花は折れることもなくそこにある。
彼のようにいかなくても、ボクは。
こんな風に小さくてもちゃんとあればいい。
彼になる必要はない。ボクはボクだから。
パンパンと膝についたほこりを払って立ち上がったそのとき。
「決闘王武藤遊戯!勝負だ!」
背後から声がかかる。
ちょっと名前が通ってしまったからっていつもこうなのかと、彼がいたら呆れるだろうか。
だけど。
「……決闘を申し込まれた以上受けて立つけど、ボクは負けないよ?」
にこりと微笑んで相手を見つめる。
彼にまた会えたとき、隣に立ちたいから。
誰にも負けるわけには、いかない。
負けない、から。
だから、ボクは往こう。
キミに会えるその日まで。
SS Back