Planet Of Dragon+

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路傍の花

 

あてもない旅の途中、ふと、視線を落とした先にそれはあった。
ささやかに、隠れるように。
けれど、しなやかに上を向く、小さな花。
茎は細くて花自体も小さくて、弱弱しくも見えるけれど、しっかりと顔を空に、太陽のある方向に向けている。
花は、いつでも光に向かって咲いていく。
『光』という単語に、ふと、彼を重ねてボクは笑う。

「……ボク、も」
しゃがみこみそっと伸ばした指先で白い花弁に触れて、気づけば語りかけていた。


「ボクも、キミのようになれるかな」
どんなに小さくても細くても折れそうでもちゃんと、前を向いて。
彼がそうしたように、彼のように生きていけるだろうか。




彼にはどれだけ助けられただろう。
その存在を知るのに少し時間がかかったけど、彼がボクを『相棒』と呼んでくれたときは嬉しかった。
認められた、気がして。
だからボクも強くなろうとした。彼の隣に在る事が出来るように。
助けられるだけではなくて、彼を助けるボクになりたかったから。
ボクを庇うあの背中に並び立ちたかったから。
決闘の時に見せるあの気迫も、一歩も引かない姿勢も、あの強い視線も何もかもが。
ボクの、憧れだった。

だから、ボクは。
ボクが、闘いの儀に臨んだ。
護られていたボクが、今度こそ彼を護る番だと思ったから。
三千年もの間彷徨った彼を逝くべき場所へ導く役目は、他の誰にも譲りたくなかったから。

「……でも、駄目だね。ボクは強くないや」
ぽつり、と本音が零れ落ちる。
「今でも、君を探してる。引導を渡したはずのボクが。
いるはずのない君を、つい振り返ってしまう。
そこにもう君はいない。わかっているはずなのに、知っているはずなのに、どうしても」

あんなに力強く、凛と生きた人をボクは知らない。
あんなに美しかった人を他に知らない。
多分、彼以上にまぶしく思える人にはこれからも出会えないだろう。
……だから、本当なら。ずっと。
君の隣に、いたかった。
ボクの隣に、いてほしかった。
追いかけるのではなく追い越すのでもなく、並んでいたかった。

「君のように強くありたいけれど。
こんなに弱くて、ボクは君のような生き方が出来るだろうか」

そっと、吐息にまぎれてこぼした呟き。
そのまま目を閉じたとき、不意に風が巻いた。

そっと、前髪をなでる感触に目を見開く。
するりとすべるこれは、風というよりも少しだけ大きなヒトの指のようで。
よく知った感触に、似すぎていて。
身体の震えを止める事が出来ない。


お前はお前だ。他の誰でもない。
だろう?遊戯。


そっと鼓膜を震わせるのは、懐かしく優しい、力強い声。
まさかと思うけれど、聞き間違えるはずもない、彼の。

「っ!アテ」
ム、と。
名を呼んで顔を上げる。しかしそこには誰もいない。
ただ、風の名残がボクの髪を巻き上げて過ぎていく。
いつの間にか目じりに溜まっていた、ボクの涙を連れて。


「……そう、か」
ふ、と息を吐き出して、再びそこに目を向けた。
小さな花は折れることもなくそこにある。

彼のようにいかなくても、ボクは。
こんな風に小さくてもちゃんとあればいい。
彼になる必要はない。ボクはボクだから。


パンパンと膝についたほこりを払って立ち上がったそのとき。
「決闘王武藤遊戯!勝負だ!」
背後から声がかかる。
ちょっと名前が通ってしまったからっていつもこうなのかと、彼がいたら呆れるだろうか。
だけど。

「……決闘を申し込まれた以上受けて立つけど、ボクは負けないよ?」
にこりと微笑んで相手を見つめる。
彼にまた会えたとき、隣に立ちたいから。
誰にも負けるわけには、いかない。
負けない、から。


だから、ボクは往こう。
キミに会えるその日まで。


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