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「俺、ずっとあのひとを見てました」
腹に力を入れて、目の前の赤い瞳を見つめる。
無理やり連れ出した公園。時間が時間なので他に人影はない。
ずっと、言おうと思っていた事。「俺が気付いたときにあのひとはもう決闘王で、TVでもあのひとの決闘を見てました。
誰よりも強くて、でも気持ちのいい闘いをするひとで。
コロシアムで実際に見たときも凄かった。
だから、俺もいつか。あんなふうになりたいって思ったんです」
ぐ、と拳を握り締めて見つめる先。驚いたように見開かれたそれはとてもよく似ている。
でも、やはり違う。
あの頃のあのひとのものとも、今のものとも。「初めて……俺にとっての、ですけど。
初めて直接会った時、あのひとは俺にカードを一枚くれました。ラッキーカードだっていって。
そのときのあのひとは、穏やかで優しかったんです。
でも、凄く。凄く、何かを押し殺した瞳をしていた」あの時は、憧れの人に会えて舞い上がっていたけれど。その後出会って判ってしまった。気付いてしまった。
あのひとが、何かをこらえていると。「……花のような、ひとでした。
そっと吹く風に揺れながら、けれど折れることもなく空を見ている。
自分でしっかり立って、ただ、空を……前を」
けれど。「あなたが還って来て。俺、わかったんです。
俺があのひとの光に惹かれたように、あのひとにとって、あなたが光なんだと」支えられればと思っていた。焦れて焦がれて、奪おうと思いかけた事だってある。
それでも手が伸ばせなかった。届かないと判っていたから。いつの間にか俯いてしまった己を??咤し、顔を上げる。
目の前の人は複雑な表情をしている。喜びと悲しみの両方が混ざってどうしていいか困惑しているようだ。
「……そんな顔するんなら、もう離さないでください。あのひとのこと。あんな笑い方させないでください。
俺は、あのひとがしあわせなら……それでいいんです」もしまた手を離したらその時は俺のチャンスだと考えますから。
そう続けたとき初めて、目の前の人の瞳が鮮やかな赤を帯びる。「ああ。判ったぜ十代。
心配しなくてもそんなこと、あるはずがないがな」
にやり、と浮かべられた笑みにこちらも同じような笑顔を返す。そして俺たちは、静かに上げたふたつの拳を軽く合わせた。